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2018.05.02 ESD関連ニュース センター事業 レポート 教員・指導者向け 

「ひとづくり2030」を開催しました

“関東地方ESD活動支援センター”発足記念  関東ESD推進ネットワーク 地域フォーラム

~SDGs達成に向けた人材育成について学び・考え・行動する~

タイトル “関東地方ESD活動支援センター”発足記念
関東ESD推進ネットワーク 地域フォーラム
ひとづくり2030
~SDGs達成に向けた人材育成について学び・考え・行動する~
日時 平成30年3月4日(日) 12:30~16:30
場所 東京ウィメンズプラザ ホール・視聴覚室
(東京都渋谷区神宮前5丁目53-67)
主催 関東地方ESD活動支援センター
参加者 一般70名+スタッフ11名

 
【企画趣旨】
国連は2015年の「持続可能な開発サミット」で、「持続可能な開発目標(SDGs)」を定めました。これは2030年を目処に、17の目標と169のターゲットを定め、「誰も置き去りにしない(no one will be left behind)」を基本理念に、世界に向けてその達成を呼びかけています。
 では2030年に向けて、私たちはどんな取組をすれば良いのでしょう?「持続可能な開発のための教育」(ESD)は、そうした世界から地域まで多様に存在する社会の課題を、そのつながりとともに理解し、解決に取り組む人を育む教育・学習です。文部科学省と環境省は全国8ヶ所に「地方ESD活動支援センター」を設置。2017年7月に関東地方ESD活動支援センターが設立されました。センターは学校教育・社会教育の双方でESDを推進・支援していきます。
 私たちの暮らす社会の未来を支える学びの場をいかに創りだすのか、そこにはどのような可能性があるのか、各分野のキーパーソンをお招きし、参加者のみなさまと一緒に、行動する方法を学び、考えます。
 
【プログラム実施内容】

■開会挨拶

・環境省関東地方環境事務所 環境対策課 佐々木渉課長
・関東地方ESD活動支援センター企画運営委員長/都留文科大学社会学科 高田研教授
 

■趣旨説明

〇関東地方ESD活動支援センター:島田幸子
発表資料(PDF:1.1M)
 

■講演

〇東京大学大学院教育学研究科 北村友人 准教授

「国際動向におけるSDGsとESD」

発表資料(PDF:1.5M)
 
 学校現場でも、ESDは良く分からないという先生が多いが、日本は先進国の中でも、認知度の高い国の一つ。韓国、インド、ドイツ、スウェーデンが積極的に取り組んでいるが、世界的にもESDの概念は、必ずしも浸透していない。ただしESDの考え方は目新しいものではなく、多くの社会で重要性は認識されている。改めて、ESDを通じてどういうことをしたいのか、考えてみたい。
 私自身は、ESDが提唱された2002年のヨハネスブルグサミットの頃は、ユネスコ本部の教育局に勤務しており、途上国を中心に基礎教育を普及する国際的な運動、EFA=Education For Allの事務局に勤務していた。ESDの概念が登場した時にユネスコ内では教育へのアクセスを高めるだけではなく、何を学ぶかという、“教育の質”を上げる事が議論されていた。
 皆さんはESDに既に取り組まれている方なので、今日の私の話は目新しい話ではないかもしれない。しかし今日は改めて、ESDがどういう考え方に基づいて実施されているのか、皆さんと一緒に考えてみたい。

1.はじめに -SDGsの背景にある世界観・人間観-
 ESDを支える大きな国際目標としてSDGsがあるが、「SD=持続可能な開発」という考え方が何故必要なのか。グローバル化・都市化が進み、世界の半分の人が都市で暮らしている。都市に人が住むことで、生活や考え方が均質化しているが、まだまだ格差も大きい。先進国と途上国の格差、同じ国の中でも格差がある。そうした中で持続可能な社会を考える上で大事な事が二つある。
 一つは、限られた資源を、誰も取り残さず、みんなでどう使うか。かつては先祖代々農民が続くというような循環型の価値観であった。しかし近代では、蒸気機関の発明のように一週間かかるところが1日で行けるようになるなど、世界が急速に変わり進歩していく。19世紀頃に大きな考え方の変化があり、近代の人々は「世界は良くなる」という価値観の下、生きてきた。ここに対して疑問が呈されるようになったのは、1960~70年代。車があれば移動は便利になるが、それを作り使用するプロセスで環境を破壊してしまう。ローマクラブの「成長の限界」のように、我々は“成長と開発”についてもう一度考え直そうと。沢山生み出すのが本当に良いのか、質を考えずに社会のあり方を捉え直すことは出来ない、という事でSDの考え方が出てきた。
 もう一つは、世代間の公平と世代内の公平。天然資源や環境など、今の世代で使ってしまうと将来困る。同じ世代であっても、格差がある。こうした中で、全ての人が“豊か”に暮らすにはどうしたら良いかを考えるのがSD。今の世代の欲求を我慢せず、将来の世代も満足できるようにしようという考え方。それを実現するために、豊かさの概念を量から質に変えようと。スローフードやフェアトレードという概念は、多少コストをかけてでも、より良い、環境負荷を減らし健康なものにしよう、それがSDで提示されたOur common futureの概念。最近は、本当にそれで良いのかという、Future Designという、人の将来可能性を作らないといけない、という議論もある。例えば親が子にするように、自分の我慢が、自分の幸福を感じるという考えで、結論は出ていないが新しいチャレンジ。SDは、環境・社会・経済、20世紀半ばまでは、人口も多くなく何とかなっていたが、現在は急速に人口が増え環境負荷が大きくなってきた。同時に、社会と経済の関係の中で環境を捉えることが、ESDとして重要。

2000年のMDGS(ミレニアム開発目標)は主に開発途上国をターゲットにしたもので、SDGsは世界を対象としたものだが、実は多くの共通目標が多くある。人間と社会の問題、成長と存続に関する問題というように分けられる。大雑把に分けると、人間の成長→教育、人間の生存→保健・健康・衛生、社会の成長→経済開発、社会の存続→環境・資源となる。この4つの領域をバランス良く実現していくことで、持続可能な世界が生まれる。社会の存続に関して、MDGSではそれほど取り上げられていなかったが、SDGsでは大きくハイライトされてきている。それだけ世界に余裕がなくなってきている。MDGSとSDGsのもう一つの違いは、アクセスから質へ、という点。また決めるプロセスも違う。ニューヨークの国連で、様々な分野毎にオープンワーキンググループを立ち上げて、政府だけでなく市民社会組織・大学など様々な組織を巻き込んで、民主的な議論を経て作ってきたのがSDGs。環境省から大きな資金を頂いて、研究者60数名でPOST2015(持続可能な開発目標とガバナンスに関する総合的研究)というチームを作り、日本の政府などが国連のワーキンググループに参加する際に、科学的な根拠となるインプットを行なった。国連のプロセスにも関わったが、かつてに比べて凄くオープンなプロセスで決められた。象徴的な事として、2013年に出たゼロドラフトの時点で17の目標が出揃っていたが、2年ほどかけてVer.7ぐらいまでのドラフトができる中で、目標の数を減らすつもりだったが、結局減らなかった。それだけ世界の問題が複雑化・多様化しているということ。「SDGs4:教育」は要らないという話も出たが、世界中の教育者がユネスコに集い、ユネスコからインプットした結果残った。目標を個別に達成するのではなく、つなげていくことが大事。それによって、より広いものの見方ができる。
 
2.いま何が問題になっているのか
 SDGsの課題は、日本でも相対的貧困率、ジェンダーギャップ、教育格差なども大きな問題になっている。
 SDGsに特徴的な問題の捉え方を紹介したい。食料分野でいうと、食料にアクセスできず飢餓に陥る人は減ってきているが、まだ大きな問題である。食料資源を上手に配分できれば、世界中の人が飢えないで済むはずだが、欧米とアフリカのような地域の違いと、同じ国の中でも格差がある。これまで途上国の飢餓の問題は取り上げられてきたが、東南アジアなどの中進国では、安くて手軽にカロリーが摂れるような質の悪いジャンクフードを食べて、子どもが肥満化する問題がある。アクセスは出来ているが質が悪い。こういった問題を解決するにはリテラシー(知識および利用能力)が必要だが、それがないために自分達の体を守ることができない。このリテラシーはESDを通して、子ども大人、様々な人に身につけて欲しいと思う。
 その一方で、Double Burden(二重の負担)と呼んでいるが、開発途上国では人口爆発、先進国では少子高齢という、それぞれの社会に応じて対応すれば良いという考え方であったが、途上国では飢餓と肥満が同時に起こるなど、実は一気に、一見相反する問題が起こっている。これまでは先進国のように労働集約型から高付加価値型の産業構造にならないと少子高齢化にならないと考えられていたが、タイなどの中進国では起こってきている。タイの隣のベトナムでは、人口爆発がまだ起こっている。色々な問題がごちゃごちゃに起こっており、かつてのように一つの処方箋を一つの問題に提示することが難しい。
 こういう中で、どんなリテラシーを身につければ良いのか、という事をESDは僕らに問うている。一番大切なことは、地域の文脈。自分たちの身近なところから出発して、大きな問題につなげられるような事が大事。今、敢えて食料や、肥満と飢餓みたいな話を出したのも、食べ物のように身近な問題のほうが分かりやすい。
 
3.ESD -SDGs実現のための教育-
 身近なところから大きな問題に考えを広げていく、そのためのリテラシーを、どう育ていくのか。その時に大事なのが、“新しい学習観”。学習指導要領が変わるという話はあったが、その変化は、世界の変化に支えられている。今は第三次産業がどんどん増え、より複雑なスキルが求められている。同時に技術革新も非常に早く、2030年には今ある職業の半分が無くなるとも言われる。こういった時代に対応するための、学びのあり方を考える必要がある。同時に、情報公害というように、溢れる情報からいかに必要な情報を選び取るか、ここでもリテラシーが必要になってくる。今の時代の学びは、体系化された知識やスキルを身につけるだけでは、すぐに古くなってしまうし、答えが無い、一つの正解があるような話でも無い。そういう中で学習観が、何か“教え込む”のではなく、“自ら学ぶ”というようになる。次の学習指導要領の、主体的・探求的・深い学びというキーワードのような学びにしていく。OECDでは、コンピテンシー(高い成果に共通する行動特性)のあり方を議論している。ユネスコも90年代には、知識を身につける、スキルを身につける、知識とスキルを使って他の人と一緒に生きる、そして自分らしく生きる、これが学びの4本柱だと言っていたが、今はこれにもう一つ加わっている。自分自身と社会を変革(transform)する、社会がどんどん変わる中に自分も参加し、自分や社会を変えながら学んでいく。こういう学びのあり方が大事で、これがまさにSDGs4.7(※下記参照)。こういった教育を象徴するのが、ESDの考え方。こうした中で、とても大事なのが、民主的な社会の担い手である「市民」。自らものを考え、自ら判断する。そのために必要な情報をきちんと集められる。そういった力を身につけることで、市民として自立する。そうした市民が増えていくことで、民主的な社会が実現していく。個人的な意見になるが、ESDが目指しているのは、基本的には民主的な社会の実現ではないかと、強く感じている。
 ESDと親和性が高く、多くの国が取り組んでいるのが市民性教育=シティズンシップ教育。自立した市民を育てることが、重要視されているが、これも危機に瀕している。例えば香港で起きた雨傘運動は、それに参加した学生は2002年に市民性教育を受けてきた世代。2002年に示されていたLearning to learn は、現在では否定されている。市民性教育というと凄く良いものと思うかもしれないが、シンガポールでは経済活動に従事して豊かになるための市民という偏ったものもある。しかし国を越えて、民主的など普遍的な価値と、それぞれの国にある固有の価値と、どうバランスをとるのか大事。個人的な意見ではあるが、ESDが目指しているのは民主的な社会の実現だと思っている。
 

国連が2015年に定めた、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」では、2030年を目標年度と定め、17の目標と169のターゲットからなる「持続可能な開発目標(SDGs)」を設けています。このうちの「目標4:質の高い教育をみんなに」では、すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進するとした目的を掲げ、10のターゲットを設けています。
SDGs4.7 2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。

 
4.結び
今日の自分の話は、抽象的で答えが無い話ではあったが、我々はESDを通して、身近なところから、そこの社会にある問題に気づき、そこに対して働きかけをしていく、そのためのリテラシーを身につける。健康、ITなどの様々なリテラシーズ(複数形)を身につけることによって、世界で起こっている問題に関心を高めながら、持続可能な社会の実現に貢献する人を育てていくことが、大事なのではと思う。
 
 

講師プロフィール
東京大学大学院教育学研究科 北村友人 准教授

グローバル化時代における教育のあり方について、政治・経済・社会などとの関わりのなかから理論的および実証的に明らかにすることを目指しています。アジアの途上国を主なフィールドとした学校教育の充実に関する研究、ESDに関する研究、高等教育の国際化と国際協力に関する研究などに取り組んでいます。これらの研究を通して、教育の公共性とは何であるのかという問題について、深く考えていきたいと思っています。

 

■事例紹介

事例を発表の際に、良いと思ったことや疑問点について参加者には事前に配布した付箋に記入してもらうように案内。
 

〇事例紹介1:学校での「ひとづくり」

大塚明氏(元天城中学校校長、NPO法人 持続可能な開発のための教育推進会議(ESD-J)理事)
発表資料(PDF:3.1M)

発表概要:つながりが、一つのキーワード。静岡県の伊豆市立天城中学校では、自尊感情の低い生徒が多いという課題を抱えていた。生徒に卒業後どこに住みたいか訪ねたところ、9割以上が首都圏を希望した。地域に誇りを持てない、どれだけ地域の良さとか素晴らしさを実感しているのか。都会に出る前に、地域の自然、文化、歴史などの良さを知り、誇りを持ってもらいたい。当時の校長として、そうした教育課題解決を模索する中ESDに出会い、2009年より学校全体でESDに取り組み始めた。
 総合の時間で“天城学習”として地域での体験活動、地域の人とつながる事をやるとともに、「持続可能な社会の担い手づくり」という視点で、各教科を見直した。総合と各教科の縦串横串をつなげてESDカレンダーを作った。地域の課題と世界の課題がつながっている事を理解することで、より主体的に活動するようになる。修学旅行もESDの視点で取材をするように形を変えたり、地域で自分達の調べた事を最終的には伊豆市長に提言する、という事を行なった。生徒の変容としては、自信を持って発表できるようになり、伊豆の自然を守りたいと、森林管理所とも連携してシカ柵を作った。
 ESDの概念を通した実践や、身近な人や行為とつながることで、地域に誇りを持つ事、世の中の役に立つという生徒の自尊感情を高める事に繋がったと思う。今の子どもたちは社会とのつながりが薄く、学校・部活・塾を回るだけで、地域の大人が何をやっているか知らない。そこを、ESDを通してつなげたと思う。ESDは様々な形があるので、一つの参考にして頂ければ幸いだ。
 

〇事例紹介2:地域での「ひとづくり」

加藤正幸氏 (チャウス自然体験学校 代表)<地域ESD活動推進拠点>
発表資料(PDF:1.2M)

発表概要:群馬県桐生市を拠点に、民設民営の自然学校として子どもから大人の幅広い層を対象に、自然体験活動、ツーリズム、防災教育、持続可能な地域づくりなど、課題解決や町の活性化につながるようなプログラムを実施している。環境省の「持続可能な地域づくりを担う人材育成事業」では、2013~2015年に群馬県の事務局を行い、ESDのモデルプログラムを地域化にさせることを行ない、再生可能エネルギーと、地域の河川の保全保護活動をテーマに行なった。
 2014年には東京海上日動火災(株)の、社会貢献プログラムを実施することになった。自宅の近所を流れる渡良瀬川は、サケの遡上があるにも関わらず、そうした地域の豊かさを多くの市民は認識していなかった。そこで、地元漁協と協力して、サケを卵から孵化させ、2ヶ月ほど家庭で仔魚に育て、放流するプログラムを実施した。また行事のたびに河川敷のゴミ拾いも行い、ゴミの種類を参加者が数えることで、ゴミ散乱の実体についても理解してもらった。そしてプログラムがSDGsの17項目の何に該当するのかマッピングし、私たちの活動が、どの課題解決につながるか、スタッフで分析してみた。
 課題としては、いまだにどこに行ってもESDやSDGsというと、何それ?という反応が返ってくる。外務省のPPAPの話題を出しても、そこから先の解説が難しく、一般化されていないと感じる。自然学校の学生リーダーにも理解してもらわないと、自然学校のプログラムに落ちていかない。また、学習指導要領の改訂に合わせて、アクティブラーニングなどにも適応ができる人材育成が急務。
 現在は、自然学校のプログラムを全てESD化させることで、現場へのが理解が進む様、取組んでいる。
 

〇事例紹介3:国際・地域を両立する「ひとづくり」

矢島亮一氏 (NPO法人自然塾寺子屋 代表)⇒発表資料(PDF:0.9M)
高橋依子氏 (JICA東京 市民参加協力第一課)
 
発表概要(JICA):“地域の宝”が海外で役に立ったJICAの事例について。JICA(独立行政法人国際協力機構)は政府開発援助の実施機関で、国内では15箇所の拠点がある。このうちJICA東京は、東京、千葉、埼玉、群馬、新潟を担当し、例えば八王子市のごみ削減の取組経験をミクロネシアに伝える事業を八王子市と協働で実施したり、みなかみ町が実施する森林保護の取組をマラウィからの研修員に紹介するなどしている。また群馬の甘楽町では、派遣される前の青年海外協力隊員が途上国で農業支援をするための技術を地元の方に学ぶという研修を寺子屋さんとともに実施している。国内の様々な人材や取組が世界だけでなく国内の課題解決にもヒントを与えるということで、企業のSDGsへの貢献事例集や、世界につながる地域の宝などの事例集も作っている。
発表概要(自然塾寺子屋):我々は、青年海外協力隊のOB/OGで組織されているメンバー。協力隊の派遣前研修、海外から来る研修員の受け入れ等を、敢えて群馬の山の中で実施している。元々は養蚕で地域が成り立っていたところだが、養蚕が廃れ、バブル期はゴルフ場開発など、農家の誇りも失われつつあり、子どもは東京の大学へ行けばいい仕事に就けるという事で、田舎をはなれている。私も養蚕農家の息子だが、東京の大学へ行き就職したが、後に海外協力隊に参加したことをきっかけに、この活動をはじめるため、群馬県内を探したところ甘楽町にご縁があった。最初は誰にも理解されない中、高齢の農家の知識を海外の研修員に伝えるための受け入れを実施。同時に、協力隊の派遣前研修参加者で、帰国後に甘楽町で農業をやりたいという子が出てきた。派遣前研修で地元に馴染みの方も多く、町長はじめ多くの人が応援してくれて、農業が回りだした。農協青年部の方なども関わって、甘楽富岡農村大学校を作り、現在では地元の農業関係者60名ほどが参加している。こうした若者が集い、春は養蚕、冬は杜氏の仕事をしているものもいる。私たちの志事(しごと)は、「農村から世界を元気に!」をキャッチフレーズにやっている。最近では、農業だけでなく中小企業も地域づくりに関心を持たれ、東雲信用金庫の理事長さんも一緒にやっていきたいと協力してくれている。市町村は動きが遅いが、我々が先に動いて、後から協力してもらう形が良いと思っている。私が子どものころは、地域に外国人がいることはまず無かったが、研修生と子どもたちとの触れ合いなどもある。信州屋という明治の店を町が改修した施設を、我々が指定管理で運営している。ヨソモノ=自然塾寺子屋=地域住民が信頼関係を作って、互いに学びあいながらやっているのが我々の取組。これからも、さらに加速してやっていきたい。

 

■全体会のコメント

環境省 大臣官房環境経済課環境教育推進室 永見靖室長
ESDは分かりにくいと言われるが、北村先生や3組の方の事例は非常に有益で、ESDへの理解が進んだと思う。答えは一つではない、というのがESDだと思うので、後半のワークショップで皆さん意見交換をして、一人一人のESDの有り方を考えるのが重要かと思う。ワークショップで“自分にとってのESD”というのを持ち帰って頂ければと思う。
 
~会場をホールから移動~
 

■分科会

全体会で発表して頂いた、3つの「ひとづくり」の事例をより深く理解するために、分科会に分かれてグループワークを行った。各分科会の進行方法を統一し、まずは全体会で発表された内容について質疑応答(分科会3は、紹介ビデオ鑑賞)を行った。
 
〇グループワーク1
「この事例は、SDGsのどのゴールに貢献しているのか考える」
全体会での事例発表中などに、参加者にメモして頂いた、「良いところ」「ポイント」などを事前に付箋に書いて頂き、それらがSDGs17項目の何に該当するのか、考え、意見交換をしながら分類した。その中から、特に効果的だと思われる項目をグループ内でディスカッションをし、ゴールを絞った。

〇グループワーク2
グループワーク1で決めたゴールについて、「このポイントによってどういう行動・考え方ができる人が育つか掘り下げる」というお題にして、より深く考えることとした。

 

~分科会会場から再びホールへ移動~
 

■全体会

3つの分科会、それぞれ4グループで実施された内容について、分科会でファシリテートを行った、関東地方ESD活動支援センター及び関東地方環境パートナーシップオフィスのスタッフより報告を行い、事例発表の講師の方にコメントを頂いた。


 
★分科会1:学校での「ひとづくり」
事例発表者:大塚明氏(元天城中学校校長、ESD-J理事)
ファシリテーター:島田幸子(関東地方ESD活動支援センター)

・地元愛を持つ人
・外に出ても、地元愛を還元できる人
・対話により変わっていく自分!
・多様な評価で自己肯定感(を持てる人)
・多様な生き方で自己肯定感(を持てる人)
「質の高い教育」とは・・・?
世代間・空間という枠を越えて、コミュニケーションをしながら学び、気づき、身近な課題が個の課題として、一人一人が目指すゴールを見つけ、自分軸を持って考えて、行動できる人。

そのためには、、、
・実際の状況を知ること
・取り組んだら発表する。

・SDGsを評価してくれる身近な大人(先生、地域、親)が必要
・学校がその機会を提供するなど、大人と子供が地域と連携できるようにする。
・全世代に貫通するESDのストーリーを提供できる社会に

大塚明氏の感想:皆さん素晴らしい議論ができて、こちらも非常に勉強になった。特に嬉しかったのは、高校生と大学生がこういう会に参加して、色々意見を言っていただいて、こういう機会がどんどん広がればと思った。私がやった実践は「ふるさとを愛する子どもを育てたい」という想いが含まれていたが、「地元愛」という言葉が出てきた。SDGsの目標を一つに絞りながら、結局絞りきれなかったのは、その通りだと思った。全部、実際は繋がっている。今までの学力観は、「仕事がないからふるさとを出ていく」という事だったが、これからは「仕事を作りにふるさとに帰る」というように切り替えていく必要があると、私自身も思った。「志を果たして、ふるさとに帰る」ではなくて、「志を果たしに、ふるさとに帰る」という事を感じている。
 
★分科会2:地域での「ひとづくり」
事例発表者:加藤正幸氏 (チャウス自然体験学校 代表)<地域ESD活動推進拠点>
ファシリテーター:高橋朝美(関東地方環境パートナーシップオフィス)

・「楽しい」感動の体験をもつ人
・住民と子どもや親をつなげられる人
・連携へリーダーシップをとる人
・地域課題や、その取り組みを広く発信できる人(地域、学校、行政)
・世代や立場を超えて、互いに学び合う関係をつくる人
・地域の課題に取り組む多様な人や団体を知り、各々の違いや特性を理解し、(教育の現場と地域の実践者を)、つなぐ人
・体験を通じて、主体的な行動と学習を継続できる人
・物の価値を知る(価格+社会づくり+サービス)
・調べる⇒知る⇒購買行動に変化する
・チャウスが自然学校から脱皮する
・地域に愛着を持っている人
・つながりを作れる人
・地域を動かす人

加藤正幸氏の感想:分科会の前の全体会での発表でマップをお見せしたが、私たちがターゲットとしているものが、(グループワークの結果から)一つも上がっていないことに驚いた。参加者の皆さんで分析して頂いて、関連する項目として目標11(住み続けられるまちづくりを)は出てくると思っていたが、それを中心に据えて頂いたことで、違った視点が見えてきてとても良かった。さらに目標12(つくる責任つかう責任)は関連性がないと思っていたが、「こういう見方もあるのか」と非常に勉強になった。今回、上げて頂いたものを地元に戻って学生リーダーたちにフィードバックして、更にサケの活動などをブラッシュアップしていきたいと思う。

 
■分科会3:国際・地域を両立する「ひとづくり」
事例発表者:矢島亮一氏 (NPO法人自然塾寺子屋 代表
      高橋依子氏 (JICA東京 市民参加協力第一課)
ファシリテーター:伊藤博隆(関東地方ESD活動支援センター)

・どこにいても、つなげて考えて行動に移せる能力をもった信念の人
・(フードマイレージとしては△だけど)地元で作って加工して別の国で販売できるビジネスの創出
・持続可能な農業の実践と、「超」高付加価値化が他へ行ってもできる
・郷土愛をもつ人
・地域の課題発掘、まちの産業の担い手になる人
・いろいろな人の想いをつなげる人
・行動力のある人
・自分らしさを大事にすること
・多様な生き方を互いに大事にする人
・「資本」の再構成ができる人
・空気を「敢えて」読まない人
・国際協力を理解する教育者
・協調性があり、協働できる人

矢島亮一氏の感想:今回参加させて頂いて、我々の取り組みを客観的に見る・学ぶ機会として、非常に大きかったと思う。最近思うのは、田舎で仕事をはじめようという若い人が、少しずつ増えてきた。周りの大人たちが、多様な生き方を理解し、尊重し合えるような仕組みづくりをする事が非常に重要だという事と、そこに来る若い人たちが、覚悟を持って来ているのであれば、そこで受け入れる地方行政の人たちも覚悟を持って受け入れて欲しいと思う。群馬で宣伝広告の仕事となると東京の大手に頼みがちだが、地方でやっている我々のような仕事を理解して、一緒になって作っていく動きも出てきているので、市町村の人たちも、若い人が来たら、その人の能力を見て、一緒になってその子を育てるくらいの大人の社会になっていくようにしていきたいと思っている。

高橋依子氏の感想:JICAとしては、世界と地域をつなげる事業を通じて何らかの形で地方創生へも貢献できるようやっていきたいという方向性がある。今日も皆さんからご意見等を頂いたので、参考にしたい。我々の分科会の最後で、高校生に感想を話してもらったが、それを紹介したい。「都市と世界を結びつけるアイデアは持っていたのですが、農村と世界を結びつけるというアイデアが斬新だなと思いました。農村に海外の人を呼んで農業を教えるのは、海外の人のためと思っていたのですけれど、今日の分科会を通して、それが地域の活性化など、色々な解決になるのを知ることができて良かったと思います。」と言っていただいた。そこに、我々の分科会の成果があったかなと思う。発表して頂いた高校生の方、ありがとうございます。
 
 
■全体まとめ:
関東地方ESD活動支援センター企画運営委員長/都留文科大学社会学科 高田研教授

短い時間で感想を言って頂いたので、言い足りない事もあったと思う。北村先生の基調講演の最後で「ESDは、多様なリテラシーを身につけて、それは市民教育だ」と言い切られました。まさに僕も同感しており、それを理論的にまとめて頂いたと嬉しく思っている。何となく市民教育というと政治教育、もっと細かく言うと選挙の教育になりがちではあるが、(本来は)そうではない。市民として、どうあるべきか? どんな市民が育つのか? その具体的な教育方法が、ばらせばこんな形で表現されて、非常に具体性を持って教育内容が深まっていくというのが、私の結論。参加した皆さんが地域に帰って、ESDをキーワードにした教育活動をして頂くのを、本当に期待している。実践を交換しあいたいと思う。次回を楽しみにしている。ゲストの皆さん、ご参加の皆さん、ありがとうございました。
 
 
まとめ:伊藤博隆(関東地方ESD活動支援センター)

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